大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)445号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は添付の別紙記載のとおりである。

原判決の認定するところによれば、昭和三〇年二月二七日行われた衆議院議員選挙に際し、同年二月二五日附読売新聞第二八一〇五号三多摩版に「味方の戦況、さぐる敵情、各党派支部長らが見た皮算用」と題する記事が掲載され、その記事中に、各党支部責任者の談話としてそれぞれの党派の立場から各候補者の得票数を予想し、なかには上告人の得票数が少いことを予想したものもあつたのである。

論旨は右記事が本件選挙の結果に影響を及ぼした事実を主張しこの点に関する原判決の説明を非難するのであるが(第一、二、三、四、七、一〇点)、原判決も「……第七区の選挙人に対しなにほどかの影響をもたらしたのであろうことはいちおうこれを肯認しなければならない。」と判示しており結果に影響がなかつたものとしているのではない。しかしながら、公職選挙法二〇五条一項は選挙の規定違反があり結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り選挙を無効とすべき旨を規定しており、換言すれば、結果に異動を及ぼす虞があるような事実があつても、その事実が規定違反にあたらない以上右二〇五条によつて選挙を無効とすることはできないのである。そして、右二〇五条にいう選挙の規定違反とは、主として選挙管理の任にあたる機関の管理手続に関する規定違反を指すものであることは、原判決の説明するとおりであり、かりに所論のように右記事の掲載が同法一四八条一項但書に違反するものとしても、かかる違法は、同法二三五条の二第一号による刑事上の責任の原因となるだけであつて、同法二〇五条にいう選挙の規定違反ではなく選挙無効の原因となるものではない。けだし、公職選挙法中選挙運動(選挙管理委員会の行うものを除く)に関する規定違反は多かれ少かれ選挙の結果に影響を及ぼす場合が多いであろうが、法律はこれらの違反者を処罰することによつてこれらの規定の遵守を期待しているのであつて、これら規定違反のために選挙を無効とし再選挙を行うことを趣旨とするものではないと解せられるからである。

論旨はまた、右記事の掲載によつて本件選挙の自由公正が害せられた旨を主張するのである(第五、六、九点)。厳格な意味では前述のような選挙の規定違反にあたらない場合でも、選挙の自由公正が失われ、選挙人全般がその自由な判断によつて投票することが妨げられたような場合には、あるいは選挙を無効としなければならない場合も考えられないことはないけれども、本件のような一新聞の記事によつて、右のような意味で選挙の自由公正が害されたものとは到底考えられないのであつて、論旨はこの点についても理由がないものといわなければならない。

論旨はまた、原判決は新聞社の表現の自由の範囲を誤解した違法があると主張する(第八点)。しかし前述のように、本件記事が選挙無効の原因とならない以上、その記事が表現の自由の範囲を逸脱したかどうかは判断をする必要がない。論旨は理由がない。

以上説明のとおり論旨はすべて理由がないから本件上告はこれを棄却することとし民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例